ハンコで運気を上げる話


 ハンコを上手に押そうとして格闘していたときに、防災無線放送が鳴った。

(それにしてもハンコというものを上手に押せた試しがない)
 
 



「振り込め詐欺の電話が集中してかかってきております」

 
まあね〜、我が町は老人で溢れているから無理もない。
 

今や絶滅したと都会では思われている訪問販売の輩も滅茶苦茶、多い。
 

果物売り、屋根の塗装屋さん、網戸屋さん、換気扇フィルター屋さん・・・

これにプラスして保険屋さんだの、宅配飲料屋さんだの、いろんな業者さんが訪れる。
 

これだけ来るってことは「引っかかりやすい町」認定がどっかでされているんだろう。
 

アタシは上手く押せないハンコを持ちながら、お姑のことを思い出した。
 

人の事は言えないが、お姑もド田舎に住んでいる。

ド田舎というものは面白くて、都会ではおよそ見当たらない職種の人も訪ねてくる。
 

「古い茶碗はないか?」「昔の農機具はないか?」「掛け軸は?」
→「あったら見せてくれ」と言ったりするのだそうだ。

 
本当に骨董を探している業者もいるにはいるらしいが、多くは訪問販売なんだろう。

お婆さんの話し相手になる代わりに何かを売り付ける算段なのだ。
 

あるとき、お姑は嫁のアタシにこう言った。

「ハンコ屋が来て『実印を見せろ』というので見せたら『こんな短いハンコを使っていてはダメだ!運気が非常に悪い!災いが起きる!しかも、それはアンタにではなく子どもに起こることになる!』と言われた」

 
はいはい、で?

 
「(アタシの可愛い子どもに)災いが起きるというのに黙って見ているわけには
いかない」
 

はいはい、で?

 
「それで、お母さんはハンコ屋が言うとおり、長いハンコを買った!」
 

はいーーー!!!???

買っちゃったんかいっ!!??

もしもし?それっておいくら?

 
「実は・・・円した!」

 
はいーーー!!!???

目玉が飛び出るかと思った。

どんな材料、使ったら、その値段になるんだよっ!!

 

お姑はとうとうと長いハンコがどんなに素晴らしいかを語っていた。

逆に今までの短いハンコでは何故、いけないのかも語り出した。

 
学がないというのは哀しいもので、段々、そうなんだ〜という気になってくる。
 

「で、話はここからなんだが、これは(アタシの超かわいい)次男用のハンコである。

で、思い出したんだが(アタシにはそう言えばかわいくない)長男がいた。

で、嫁のアンタに聞くが、長男はどんなハンコを使っているのだ?」

 
タンスからハンコを引き出してきたアタシはぶったまげた!

 
「ぎゃーーーー!!?? お母さん!お母さん!(アンタの長男のハンコ)
超、短いっ!!

どーしよ!?どーしよ!?」

 
お姑は一切、うろたえる風を見せずにこう言い切った。

 
「まあ、ええで!そんなハンコくらいで運命なんて、変わらんでね!

それ使ってりゃええで!」

 
はいーーー!!??
 
さっき、運命がどったらって話を延々してたんじゃないんかいっ!

なんで、次男のは買って、長男のは買わないのだ!?

 

可哀想な長男であるアタシのダンナ。

 

でも、よくよく考えたら「長男の分は嫁であるアンタが買い替えなさい」
 
と言われても、ゼッテーやだから、こういう結果で満足した。

 
あれから次男には特に災いのようなものもない代わりに、
とってもラッキーになったという話も聞かない。
 

ハンコを見るたびに、あの時のお姑の変わり身の早さは一体、
何だったんだろう?と考える。
 

 

 

 

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