それぞれの悼み(その1)



 私は物書きの端くれだから、やっぱり、どんなことが

起ころうとも、それを書き記しておきたいと思うので

3週間経とうかという今も、信じられないが書いてみる。

 
 
飼い犬が死んでしまった。信じられない。

 

 ウチのあの子は姿形は犬だったのだが、彼女はしゃべれたし、

人の気持ちを読めたし、いつでもカメラ目線の美しい子で

しかも、私が育てて来た子の中で、最高に賢い子で

(そもそもの比べる対象基準が低いが・・・)

犬なんだが、犬ではなかったのだ。

 

1310か月だったから、いつ別れが来ても、おかしくない

と言えば、ないのであるが

 

それは、あまりに突然で、でも、母(私)に介護をさせないのも

心残りであろうとの配慮なのか、でも長患いでは母も疲れるであろうと

思ったんだろう、わずか1日半の看病とも言えないくらいの早業で

逝かれてしまった。

 

3週間前の火曜日のお昼。

彼女はいつもどおり、我が家の誰よりも高級なランチを

美味しそうに召し上がり、お昼寝をしていた。

 

すると、しばし経ち、その食材をそのままの形でお吐き遊ばしたのだ。

 

それから、夕方までに4回吐いてしまったので

 

これはどうしたことか?食べ過ぎ?という気楽な気持ちで

病院に行ったら、まさかの「あまり状態が良くない」告知だった。

 

とりあえず、その日はそのまま入院。

 

彼女の毛布やら、彼女が可愛がっているペット(ぬいぐるみ)

やらを持ち込んだ母に、いつもどおり尻尾を全開にしてくれていたが

「え?うそ!?お母さん、帰っちゃうの?

私、ここに残されるの?」って言って、大きな目をウルウルさせていた。

 

そして、翌、水曜日の午前中にお見舞いに行ったときは

 

ドクターに「食欲があって、完食です!」とまで言われたのに

その日の夜に「数値が良くないので、一旦、お家に帰りましょう」

と言われ、半信半疑ながら、家に連れて帰ったのだ。

 

いつものように私と同じベッド、同じお布団に仲良く並んで寝て

彼女はとても気持ち良さそうな寝息をたてていた。

 

なんだか、とても安心しているような犬娘の姿に

私もすごく幸せを感じていた。

 

そして、翌、木曜日。

 

私たち夫婦は土曜日に別々だが、どうしても抜けられない仕事があり

土曜日をどうするかの算段を彼女の前で話していたのだ。

 

多分、これを耳全開で聞いていたんだと思う。

 

そして、結論が出ないまま、ドクターとの話し合いで、

一回、病院に行って簡易点滴をしようということになった。

 

お昼頃、点滴をしに病院に行き、そして家に戻って来た。

 

昨日からトイレに行っていないので、車から庭に下ろし

いつもの場所で「出る?」と聞いたら、彼女は自分で

歩いて、いつものように上手にオシッコをしたのだ。

 

そして、しばらく庭の匂いを嗅ぎながら、少しだけ

いつものルートを散歩した。

もちろん、自力で歩いている。

 

私は「治ったんだ!やっぱね!この子は天才だし!」と

とても喜んだ。

 

ドクターは深刻なことと希望が持てることを

同時に言うので、私は「終わりが近い」という事実は

認めながらも、目の前で普通に歩いて

 

尻尾を全開で振ってくれる子と今すぐお別れなんて

夢にも思っていなかったのだ。

 

そして、家に入り、いつものソファーに彼女を置いた。

 

その横で急きょ帰って来ていた人間の方の娘が

彼女の好きな焼き鳥を見せびらかすように、食べようとし

 

私は私でお昼ご飯を彼女の横で食べようとしていたのだ。

 

家に入ってから20分も経っていなかった。

黒くて大きな目で焼き鳥を狙っていた彼女の呼吸が

あきらかに変になったのだ。

 

大声で名前を呼ぶ娘と私。

 

吸いたいのに、吸えなくて苦しいっていう感じだろうか。

 

ああ、これは今年の春に逝ってしまった母と同じだな。

人も犬も最期は呼吸が出来なくて、苦しいのかと

あの光景が脳裏にフィードバックする。

 

私は彼女をさすりながら

「苦しいね。もう頑張んなくていいよ」って言い

 

娘は彼女の名前を叫びながら、こう言った。

 

「ありがとう!大好きだよ!」

 

母が死ぬ時も、女の子の孫(私にとっては姪)が母に向かって

同じように、こう叫んでいたなって思い出した。

 

人は誰か大切なものを失う時には、この言葉をセレクト

するんだと、瞬間だけど、今の現実をどこか遠い国の

出来事のように感じていた。

 

犬娘は酸素を取り込もうと最大限に頑張っていたけれども、

5回目にスーッと潮が引くように、呼吸を止めてしまった。

 

嘘でしょ?

動いてよ!

 

犬は毛皮に覆われているからだろうか、それからも

ずっとずっと、いつものようにあったかくて

ただ眠っているだけのようにしか思えない。

 

実際のところ、目の前で繰り広げられていることに実感がなく

何が起こっているのか、私にはよくわからなかったのだ。(続く)

 


 

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